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■最近の研究から
(1)アモルファスシリカの構造および発光挙動に関する研究
ガラスやアモルファス物質の構造は一般に無秩序であるといわれます。しかし、シリカガラスでは ナノメートル程度の空間領域に、ある種の秩序構造(中距離秩序)が存在しています.本研究では、 その中距離秩序構造が、粒子の大きさに応じて変化するということをフュームドシリカと呼ばれる アモルファスシリカ微粒子を用いて、実験的に初めて示しました。また,シリカガラスにボールミルによる力学的応力を 印加することで中距離秩序状態を段階的に制御することが可能であることを見出しました。
T. Uchino, A. Aboshi, S. Kohara, Y. Ohishi, M. Sakashita, and K. Aoki, Phys. Rev. B 69 155409 (2004). A. Mukai, S. Kohara, and T. Uchino, J. Phys.: Condens. Matter 19, 455214 (2007).
さらに我々は,フュームドシリカやシリカゲルが熱処理過程で,熱処理条件に応じて多様な発光現象を示すことを
見出しました。特にフュームドシリカを1000℃程度の温度で長時間熱処理を施すことによって作製した透明シリカ試料は,
紫外線照射により白色に発光することを報告しました。これらシリカ微粒子の発光現象は、これまで知られている
シリカガラスの発光とは本質的に異なることから、微粒子の熱処理過程で特徴的な発光サイトが形成されている
と考えられます。また,時間分解発光測定などを駆使することで、その発光機構に関する詳しい知見を得ること
ができました。
T. Uchino and T. Yamada, Appl. Phys. Lett. 85 1164-1166 (2004).
T. Yamada and T. Uchino, Appl. Phys. Lett. 87 081904 (2005).
A. Aboshi, N. Kurumoto, T. Yamada, and T. Uchino, J. Phys. Chem. C 111 8483 (2007).
Y. Nakazaki, K. Fujita, K. Tanaka, and T. Uchino,J. Phys. Chem. C 112 10878 (2008).
国際特許出願「透明シリカガラス発光材料およびその製造方法」(国際出願番号PCT/JP2004/012373)
(2)シリカベース有機-無機ハイブリッド高効率発光材料の作製
(1)で示したシリカ由来の発光は,シリカを長鎖アルキル基などで修飾することでさらに増大すること がわかりました。また,我々は,オクタデシルトリクロロシランやオクタデシルトリエトキシシランの加水分解脱水 縮合物(有機-無機複合シリカゲル)を不活性ガス(窒素やアルゴン)雰囲気下で加熱することにより,発光量子収率が約20%という高い発光強度を示す青色発光材料が 得られることを見出しました。この発光は,シリカゲル中に存在する水酸基の脱水縮合反応の過程で生成した準安定構造に由来すると考えられ, ゲル中のアルキルは,その準安定構造を安定化させる役割を果たしていると推察されます。また,ここで得られる発光は, 350〜450nmの波長により励起される青〜青緑色発光であることから,半導体LD励起による 可視発光体として利用できる可能性があります。
N. Sagawa and T. Uchino, Appl. Phys. Lett. 87 251923 (2005). N. Sawawa and T. Uchino,
J. Phys. Chem. C, 112 4581 (2008). A. Nishimura, N. Sagawa, and T. Uchino, J. Phys. Chem. C, 113
4260 (2009).
国際特許出願「シリカ微粒子の表面修飾を利用した可視発光材料およびその製造方法」
(国際出願番号PCT/JP2005/15864).
(3)カラーセンター含有発光性MgO結晶の作製方法の開拓と,レーザー発振現象の探索
MgO, Al2O3, SiO2等の第3周期元素酸化物の結合エンタルピー は約4,000〜15,000 kJ/molであり, NaClなどのアルカリハライド系イオン結晶の約5〜20倍の値を有しています。したがって, アニオン空孔の生成エネルギーも10 eV程度と極めて大きく,これら酸化物に酸素空孔およびそれ に起因するカラーセンターを導入するのは容易ではありません。我々の研究グループでは,近年, 金属Mgと一酸化ケイ素(SiO)の固相反応過程でMgOが選択的に昇華し,かつ,昇華によって得られた MgOは発光に寄与するカラーセンター(F, F+ center)を多量に含む不定比酸化物微結晶であることを報告しました。
さらに,我々の研究グループはこのようにして作製した発光性MgOが,粒子間の光の多重散乱による光増幅に
起因するレーザー発振,いわゆるランダムレーザー発振をすることを見出しました。一般にカラーセンターの
発光は,格子振動との相互作用が大きいため,発光スペクトル幅が広いことが特徴です。今回得られた,MgOのカラーセンター
レーザーも,可視域の大部分をカバーする発光バンドを有しているため,新しい波長可変可視レーザーとしての
利用が期待できます。右図は,今回作製したMgO結晶にNd:YAGレーザーの4倍波である266nmのパルスレーザー光
を照射したときの,照射フルエンスに対する発光スペクトルの変化を示します。励起フルエンスが160 mJ/cm2を
越えたあたりから380 nmと510 nm付近にレーザー発振に伴う発光強度の急激な増大が観測されています(532 nmの
鋭敏なピークは,励起に用いたNd:YAGレーザーの2倍波)。
T. Uchino and D. Okutsu, Phys. Rev. Lett. 101 117401 (2008).
T. Uchino, D. Okutsu, R. Katayama, and S. Sawai, Phys. Rev. B
79 165107 (2009).
国際特許出願
「カラーセンター含有酸化マグネシウムとその薄膜,波長可変レーザー媒体,レーザー装置,光源デバイス」
(国際出願番号PCT/JP2009/65252).
(4)真空還元溶融法によるカラーセンター含有アルミナ(Al2O3)単結晶の作製
アルミナ(Al2O3)は,代表的な耐火材でありその融点が約2050℃と非常に高いため,MgOと同様に酸素空孔等の
発光性カラーセンターを導入することは容易ではありません。しかし,我々は近年,多結晶アルミナ粉体を高真空雰囲気下,
カーボンルルツボを用いて誘導加熱(Induction Heating, IH,右上図参照)することで,1900℃程度の温度でも多結晶アルミナ粉体が溶融することを見出しました。
その溶融冷却物は表面光沢のあるアルミナ単結晶で,その結晶中にはカラーセンターが1017cm3
以上の濃度含まれている発光性物質であることが分かりました(右下図参照)。この真空溶融アルミナ単結晶は,カラーセンターとして
F, F+, F2, F2+の少なくとも4種類の発光中心を有しており,異なる波長の紫外線励起により,これらカラーセンター間の可逆的な光誘起相互変換現象が見られることを報告しました。
M. Itou, A. Fujiwara, and T. Uchino, J. Phys. Chem. C 113 20949 (2009).
国際特許出願
「波長可変レーザー発振酸化物結晶の作製方法」
(国際出願番号PCT/JP2010/50028).
このような,真空還元溶融法による発光中心の導入は,アルミナのみならず,スピネル(MgAl2
O4)等の他の耐火性Al2O3-MagO-SiO2結晶にも適用できる
ことを確認しており,現在,このようにして得られた種々の結晶の発光特性の評価を行っています。